A&Vフェスタ2003 冨田勲氏出演イベント報告

A&Vフェスタ 2003」が、2003年10月23日(火)〜26日(日)、横浜市・パシフィコ横浜で開催されました。

冨田先生は、「DVDオーディオプロモーション協議会」のブースのイベント(10月25日)に出演なされました。

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わたくしも幸い、そのイベントを見る事が出来ました。

A&Vフェスタとは、オーディオとビジュアル関連の展示会でして、旧オーディオフェアを受け継ぐものだそうです。 (開催日 2003年10月23日(火)〜10月26日(日)
冨田先生は、「DVDオーディオプロモーション協議会」 http://www.dvdaudio-net.com/ のブースに出演されました。

ブース内には試聴室が設けられ、その中で毎日いくつかのイベントが行われまして、冨田先生はそのなかの一つに出演されました。
冨田先生は25日(土)に、3回出演なされました。

さて、「DVDオーディオ」とは何ぞや?とお思いの方も多いと思います。実は私も今回のA&Vフェアまでは、その存在は知っていましたが、詳しい事はあまりわかっていませんでした。
簡単に言いますと、DVDビデオのディスクは膨大な情報量を格納出来ますので、その情報量を映像でなく、音楽用に贅沢に使ってしまおう。それにより、CDをはるかに超える高音質や、マルチチャンネル、さらには長時間録音を実現した。というものだそうです。

再生には、専用のDVDオーディオ対応機器を使用するのがベスト(DVDオーディオのロゴがある専用機器でないと、本来の高音質にならない)ですが、通常のDVDビデオプレーヤーでも音声の再生可能、すでに普及しているドルビーサラウンドの機器を使えばマルチチャンネル再生も可能、という事のようです。(アルバムタイトルにより異なるかも?)

DVDオーディオディスクをパソコンで再生するには、ドライブは通常のDVD-ROMドライブで良いのですが、サウンドカードがDVD-AUDIO対応のものが必要、という事のようです。また、DVDオーディオ対応の再生ソフトが必要のようです。(詳しい事は、是非専門の方に。)

冨田先生は、特にDVDオーディオのマルチチャンネルに着目しておりまして、会場のイベントでは、かつての4チャンネルステレオ時代から作り続けて来たサラウンド作品の紹介、その音づくりの秘密や苦労話、そして冨田先生の生徒によるサラウンド作品の紹介などが行われました。

しかし、このDVDオーディオというのは、(私も含め)まだ良くわかっていない方が多いようです。 DVDオーディオブースの隣で書籍・CD販売ブースがありまして、DVDオーディオディスクも並んでいたのですが、あるお客さん(DVDオーディオをわかっている方か?)がレジ係の女性に、「オーディオでなく映像が入っている作品はどこに置いてあるのか?」と質問したところ、「これはDVDと書いてあるから、映像作品です。」なんて答えてました。大丈夫なんでしょうかね。バイトでレジ係やっているだけの方だったのかも知れませんが、隣のDVDオーディオブースで勉強してくれ! と言いたくなりましたょ。(言いませんでしたが・・・。) その場所にわかっているスタッフがいなかったのも、問題かも知れませんね。

一方、SACD(スーパーオーディオCD)なんていう規格もあって、DVDオーディオの隣にブース構えていましたが、こちらも高音質で、マルチチャンネル可能、なんだそうです。
また2方式対決かよ?懲りないねー。
ちなみに、SACDは通常のCDプレーヤーでも再生できるそうです。(ただし、こちらもSACDのロゴがついた機器でないと、本来の高音質やマルチチャンネルになりません。)

ただ「オーディオCD」と言っていますので、ビデオと勘違いする可能性は低いのかなぁ。
印象としては、サラウンドならDVDオーディオ、お気軽再生ならSACD、といった感じでしょうか? (とは限りませんかね。) まぁ、DVDオーディオとSACD兼用プレーヤーがすでに発売されていますので、それを買っておけば間違いないのでしょうかね。

さて、当日のイベントの話に戻ります。10月25日土曜日、私はA&Vフェスタ開場のパシフィコ横浜に向かいました。当日冨田先生の講演は、PM 1:00 / 3:00 / 5:00 と、3回行われまして、昼頃到着した私は、まずDVDオーディオのコーナーに向かい、1時の整理券を受け取りました。

他の展示ブースをいくつか見てまわっていたところ、あっという間に1時近くになってしまい、 DVDオーディオブースに戻るとすでに長蛇の列。時間が来て行列は会場の試聴室の中へ。空いていた席は右端しかありませんで聴取ポイントとしてはベストではありませんでしたが、講演者側でしたので、冨田先生の姿はよく見えました。

ブース内の試聴室には、前3つと後ろ2つ、計5つのスピーカ、そして正面にパソコンの画面やDVD作品のメニュー画面などを表示するフラットモニターが設置されていました。右側は講演者の席と、オーディオ機器やパソコンを操作する会場のスタッフがいました。(スーパーウーファーはどこかにあったのかな?気がつきませんでした。)

司会者の紹介のあと、冨田先生のお話が始まりました。
冨田先生のによりますと、今から約30年前にシンセサイザーを始めた当初から、自分はマルチチャンネル (当時開発された4チャンネルステレオ方式)のサラウンド作品に取り組んでおり、ビクターの開発したCD4方式に力を入れていた。

しかし、当時の4チャンネルステレオは、一般的には難しそうなイメージを持たれてしまい、家庭に大きなオーディオ装置を置くもは敬遠され、一部のマニアにしか普及しなかった。さらに、複数の方式が乱立してしまった事などにより、4チャンネルステレオ方式は10年ぐらいで崩壊してしまった。

自分もサラウンドで表現したかったのだが、2チャンネルステレオで発表せざるを得なかった。しかし、現在はDVDの技術により、やっとサラウンドが普及しつつある。あきらめずに続けて来て良かった。

とおっしゃっていました。現在は、過去の作品をDVDオーディオのサラウンド向けに作り直しているとの事です。

会場では、シンセサイザー作品「パスピエ」、「卵の殻をつけたひよこの踊り」(展覧会の絵)、「はげ山の一夜」、「火の鳥」の中の1曲、「木星」(惑星)、そして、オーケストラ作品「源氏物語交響絵巻」中の1曲が、それぞれサラウンドで発表されました。前後方向への音の広がりには圧倒されましたし、あらゆる方向から音が聞こえる面白さは、これがトミタサウンドの神髄かな、と思いました。

ちなみに、冨田先生の考えるサラウンドは、必ずしも正面が主役である必要はなく、自然や街で耳に入る音と同様、自分が向いた方が正面である、という考えに基づいていますので、5.1チャンネルでなく、あえて正面のセンタースピーカーを使用しない 4.1チャンネルにしているそうです。 (・・・でも、わかっている人はいいのですが、一般的には数字が多い方がエラい、と思っている人が多いしなぁ。どうなんでしょうね。説明が大変だったりして?)

会場では、曲をパソコンから直接鳴らしていました。前面のモニターにはパソコンの画面が表示され、ソフトは「NUENDO」のようでした。「惑星」以外はまだDVDオーディオ作品としては発表されていませんので、編集中、あるいは昔の、4チャンネルのマスターテープからそのまま4トラックで取り込んだものだったのかも知れません。

「はげ山の一夜」では、はげ山の上を怪鳥が飛んでいる様子を、メロトロンのコーラス音をテープ速度変えて表現した、という説明をされていました。怪鳥、というのはちょっと知らなかったです。そういえば、原曲では金管楽器で演奏される最初のテーマを、冨田版では金管楽器的な音と一緒に、オクターブを上下ジャンプする高い音で「ピィー〜〜ヨ〜〜」と鳴っていますが、これはもしかすると、その「怪鳥」の鳴き声を表しているのかな、と今になって気づきました。

冨田先生の言葉ですが、「月の光」のアルバムの頃は、莫大な資金を投じて、モーグシンセサイザーや録音機材を購入した為経済的にかなり苦しくなってしまったが、そんな状況の中で、夢を見ながら作っていた作品である、という言葉が印象に残っています。

卵のからをつけたひよこの踊り、この曲は、子供も楽しめる音楽でなければならない、という思いがあって制作したものだそうです。ヒヨコと親鶏と猫の追いかけっこは、2チャンネルのステレオでも右から左から、音が走り回っていて、十分面白いのですが、これか前後左右から来るわけで、後ろから音が来るのもくすぐったいような感じでなんとも言えず、やっぱり面白いわ。最後の「バシャン」という音は、水の生音だそうです。今まで知らなかった。

最初にこのレコードが発売された当時も、4チャンネルステレオ版が発売されていたのでしょうかね・・・CD4方式なのでしょうかね・・30年も前から、家庭でこのような音響体験をしていた幸せな(裕福な?)方もいらっしゃったのかなぁ。私が田舎に住んでたせいもあるかも知れませんが、レコード店でもあまり冨田シンセサイザーの4チャンネルレコード見た記憶がないんですよね。ただ、私の所有しているスイッチト・オン・バッハ(ワルターカーロス)や、スイッチト・オン・ヒット&ロック(冨田勲)は、SQ方式の4チャンネルマークが付いています。

詳しくはないのですが、SQはそのままでちゃんと2チャンネルステレオになり、デコーダを通すと4チャンネルに分かれる、らしいです。ただ、完璧には分離出来ないのではなかったかなぁ。しかしCD4方式の4チャンネルでは、しっかり4つ分離するとか言っていた記憶があるなぁ。しかし、その場合普通の2チャンネルステレオで聞くと、後ろのスピーカーの音は出てこないのかなぁ。

冨田先生の作品紹介の続きです。魔王カスチェイの踊り(火の鳥)や、パゴダの女王(組曲マメールロア)などの紹介の後、惑星(木星)の紹介が行われました。この演奏は、DVDオーディオ版、惑星2003のためにミックスしなおしたもののようでして、「UFO」が飛行する音が会場内をグルグル回っておりました。 (この「UFOの音」は、バミューダトライアングルに出てきたUFO?のようです。)

この「音が回る」デモもありまして、パソコン画面を表示しながらマウスでポインタを回し、UFOの音を会場のスピーカー内でグルグル回していました。バックの音楽は「金星」でした。「昔はこういう効果を実現するのがとてつもなく大変だった。トラック数も少ないアナログテープレコーダーだったので、こっちのトラックの音をあっちに移して、今度はそっちをこっちに移して、・・・という事を何度も繰り返し、効果がないと最初からやり直しで、数日掛かった。それに比べ、今はマウスで回すだけで出来てしまう。なんと簡単になった事か。」というお話もされていました。

その、音を回す操作を、会場のどなたかやってみませんか? というお話もされていたのですが、ちょっと挙手する方いませんでしたねぇ。いや私も手を上げる勇気なかったですし・・・。

最後に、「源氏物語・交響絵巻」のサラウンド版が紹介されました。オーケストラと和楽器、そしてシンセサイザーも入った曲です。今回はロンドンフィル演奏をバラで録音してあった素材使って、シンセサイザー作品を作るのと同じ手法で、サラウンド作品として仕上げたものだそうです。「桜の季節」と「生き霊」の部分でして、「平安サラウンド」などとおっしゃっていました。

和楽器の入ったオーケストラ作品というの自体珍しいものですが、さらにシンセサイザーも入って、音響効果・サラウンドも狙った作品なんて、世界中探しても他には存在しませんですね。こんな事できるのは冨田先生だけですね。気さくで穏やかな方ですが、実はとんでもない超人なんだなぁとあらためて感じた次第です。

私はNHKホールでこの曲の初演を聞いておりますが、それとはまた違った作品として仕上がっておりました。 NHKホールでもスピーカーが多数置かれ、サラウンド効果を狙った部分がありましたが、その効果が使われたのは一部だけでして(生き霊の部分?)、全体的には一般のクラシックコンサートのようなオーケストラが中心の演奏でした。

今回の新バージョンでは、全編サラウンドになっているとの事で、会場のデモ演奏でも、春の穏やかな季節の中をのどかにヒチリキの音がフワフワと漂っていたり、生き霊が自分に突進してきたりと、素晴らしいものを聞かせて頂きました。音楽を超えた音響体験というのかな、冨田先生のシンセサイザー作品は、よく「音のアニメーション」とか「映像不要の(ディズニーの)ファンタジア」と言われていますが、今回の「源氏物語」は、「映像不要の実写版大ファンタジー作品」とでも例えたら良いでしょうか。

最後に、先生の生徒さんが2名登場し、作品が紹介されました。一人はクラシック系の方。「野尻修平さん」だそうです。レスピーギの「ローマ三部作」でして、すでにDVDオーディオ作品として発売が決まっているそうですいわゆる打ち込み作品ですが、最初からサラウンド作品として作られているもので、会場でも空間を音が自由に飛び交っていました。

シンセサイザーを使ったクラシック作品が発売されるの事も、最近少ないですし、私も大変期待しています。ただ、音色的には、オーケストラの音をそのまま模したもの(PCMかな)のようでした。冨田先生のようなシンセサイザーを使って今までにない音の世界表現をする、という方向ではないようで,、ちょっと残念かなぁ、と思いましたが、これは冨田先生から与えられた課題曲を完成させたもの、との事でした。

もう一人の方は、いわゆるテクノ系の音楽です。 (正しいお名前存じあげませんで、申し訳ない。) ファンタジックな曲、そしてテンポのある曲が紹介されました。こちらの方は、シンセサイザーならではの音作りでした。幻想的で重厚な音には、冨田先生の影響も感じられました。

講演が終わり、私はつづいて同じブースで行われた、クラシック曲のDVDオーディオ版の紹介も聞いて来ました。ここでも「惑星」(木星)の紹介がありました。

その後、隣の会場の楽器フェアなども見てまわり、販売コーナーで、「惑星」のDVDオーディオ版購入したり、そしてDVDオーディオのコーナーに戻ると、冨田先生の5時の最後の回もまだ空きがあるとの事。一番後ろのパイプ椅子の席でしたが、再び先生の講演を聞く事が出来ました。
さらに、購入したDVDオーディオ版惑星にサインまでして頂く事が出来ました。大変感激しました。ただ、書くものを持ち合わせておらず、近くにあったボールペンでサインして頂く事になっていまい、申し訳なかったです。

2003年11月25日

冨田勲・レコード室

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